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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)594号 判決

控訴人 牧野義一

右訴訟代理人弁護士 前田外茂雄

被控訴人 株式会社銭屋

右代表者代表取締役 湯浅賢太郎

右訴訟代理人弁護士 小田美奇穂

同 立野造

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和三二年六月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、

控訴代理人において、

一、民法第一八九条の善意占有者とは果実収受権を含む本権(所有権等)を有すると誤信している者を指すところ、本件仮還付は被控訴人に所有権ありとしてなされたものではなく単に元の所持者として仮還付されたものにすぎず、被控訴人も右仮還付を受けるに際し御用の節はいつでも差出すべき旨を仮還付請書で表明しており、仮還付後における被控訴人の占有は単に警察署から領ったものであって自己の所有権に基くものとしての占有ではないから、被控訴人は同条の善意占有者に該当しない。

二、果実とは元物を消耗することなくして元物より生ずるものを言い、物の使用の対価として受くべき金銭を法定果実と言う。そして物の使用の対価とは元物を消耗することなくして受くべき金銭であり、物の使用により元物を著しく毀滅するときは、その受ける対価は果実ではない。ところで所謂貸物屋の貸布団はこれを他に賃貸する場合、少くとも年一回は綿を打直し他の綿と混合して作り直す必要がありまた布も破れて来て、二、三年もすればその元物を失うに至るから、貸布団の賃料は物の使用の対価ではなく元本を消耗しつつ得る利得であり、従って果実には該当しない。

と陳述し(た)。≪証拠省略≫ほか、

原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

一、当裁判所は控訴人の本訴請求を失当と認めるものであって、その理由は左記に附加するほか原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  控訴人は、被控訴人が民法第一八九条第一項の善意占有者に該当しない旨主張するので判断する。被控訴人がその所有にかかる本件中古布団を訴外富永徳三郎、田中某の両名に騙取され、その後昭和二五年一〇月一二日川端警察署から右布団の仮還付を受けたことは当事者間に争がなく、≪証拠省略≫によれば被控訴人は控訴人が右布団の所有権を即時取得したものとは到底考えていなかったことが認められるところ、以上の事実によれば被控訴人は本件布団の仮還付を受けたことにより果実収取権を含む本権(所有権)を有すると信じてその占有を始めたものと認めるに十分である。もっとも成立に争のない甲第二号証によれば、被控訴会社代表者湯浅賢太郎は右仮還付を受けた際川端警察署に対し「御用の節はいつでも持参します」との旨を記載した仮還付請書を作成、提出していることが認められるが、右は捜査の必要に応じ被控訴人が随時提出すべきことを約したにすぎないものであるから、これを以て被控訴人の悪意(本権不存在の認識)を推認すべき資料とはなし難く、また右仮還付が被控訴人を所有者としてなされたものではないとしても、このことは前認定を左右するものではない。そうすると被控訴人は民法第一八九条第一項の善意占有者に該当するものと言わねばならない。

(二)  次に控訴人は、貸布団の賃貸料は民法第一八九条第一項の果実ではない旨主張するので判断する。元来法定果実とは元物をその用法に従い他人に利用せしめその対価として収受する金銭その他の物を指すのであって(民法第八八条第二項)、元物自体を他人に消費させて受くべき対価が法定果実に該当しないことは勿論である。ところで一般に貸布団の賃貸は元物たる布団自体の消費を目的とするものではなく、その用法に従った利用を目的とするものであるからその賃貸料は布団自体の消費の対価としてではなく布団利用の対価として支払われるものと言わねばならない。もっとも、貸布団を他人に反覆して賃貸利用せしめた場合には元物たる布団自体もそれに伴って次第に損耗を来し遂には本来の効用を失うに至るべきことは当然であるが、右損耗や効用低下は布団の本来の用法に従った利用に随伴して副次的に生ずる現象にすぎないから、右現象を捉えて布団の賃貸がその元物自体の消費を目的とするものとは到底認め難い。そうすると本件布団の賃貸料は民法第一八九条第一項の果実に該当するものと言わねばならない。

二、よって本件控訴は理由なしとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村正策 裁判官 黒川正昭 畑郁夫)

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